バルセロナ五輪 銅メダリスト
ヨーコ・ゼッターランド氏
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健康寿命をのばそう運動主宰
西川りゅうじん氏
パリ五輪をきっかけに心と体を元気に!
「オリンピアン」の健康管理術
西川:7/26~8/11の17日間、フランスのパリでオリンピックが開かれますね。パリでの開催は1924年(大正13年)以来、100年ぶり3回目です。
ヨーコ:私がアメリカ代表として初めてオリンピックに出場して銅メダルをいただいたのが1992年のスペイン・バルセロナ大会でした。その後、96年にアメリカのアトランタ大会にも出場しました。今回もどんなオリンピックになるのか楽しみです!
西川:オリンピアンの皆さんは身体能力が高いだけでなく、健康管理の達人中の達人です。ヨーコさんは心身の健康管理で、どのようなことに気をつけてこられたのでしょう?
ヨーコ:アスリートはもちろん、誰しもに共通することですが、「よく寝て、よく食べ、そして、よく運動する」のが健康を維持するにためには何より大切です。
西川:おっしゃる通りですね。ぐっすり眠ることは大切ですね。海外遠征の際に時差で寝付けない場合はどう対処するのでしょう?
ヨーコ:質の高い睡眠を取るためにも、現地の時間に合わせて、朝、しっかり頭と体を起こすことが大事です。私は着いたら1~2時間くらい街中を散歩しながら日光を浴びるようにしていました。日の光には心身を目覚めさせ、体調を整える効果があります。
西川:なるほど。日光を浴びて体内時計をリセットし、体調を整えるわけですね。
ヨーコ:多くのアスリートは頑張ることは得意ですが整えることはあまり得意ではないかもしれませんね。
以前、在籍していた大学の記念講演会にスピードスケートの小平奈緒さんがいらした際にうかがった話ですが、彼女は記録が伸びなかったとき、血液検査を受けたら日光によって体内で作られるビタミンDが不足していることが判明し、ドクターのアドバイスで毎日10分間、日の光を浴びるようにしたら数値も改善して体調も整ったそうです。
西川:ガンバり過ぎて燃え尽きたり、心身に不調を来す人は日本人全体に少なくありませんね。海外での試合の際の食事はどうしていたのですか?
ヨーコ:「良い加減(いいかげん)」が大事かもしれませんね。私たちはアスレチックトレーナーとの決めごとを守れば、あとは自己管理でした。私自身は海外遠征先で提供される食事を積極的にいただきました。その土地からの栄養とエネルギーをもらえますし、現地の方々へのリスペクトにもなるからです。
西川:その地で育まれた食べ物を食べると美味しいし、「美味しい!」といえば地元の方も喜びますね。
ヨーコ:食には体を構成する栄養素以上の意味合いがあり、食事を共にすると、その国や地域の文化的背景に触れることができます。ただ、試合期間中は生野菜など火が通ってないものや、支給された以外の水を口にすることは避けました。
西川:普段と同じものを食べていないと調子を崩す怖さもあるでしょう。
ヨーコ:食事のみならず、「このコンディションでこのルーティーンでいかないと自分は調子が出ない」などと思い込まないことです。健康管理は重要ですが、細かいことを気にしつつも、何事も臨機応変に行動する対応力や柔軟性が大切かな、と思います。
「ながら運動」で十分
西川:ヨーコさんのようなアスリートに憧れて、「運動したいが、きっかけがない」「やってみたけど続かない」といった人はどうすればいいでしょうか?
ヨーコ:首都圏に住む人はジムなどに行かなくても日常的にけっこう運動できていると思いますよ。
西川:たしかに電車での通勤・通学はかなりの運動量ですね。
ヨーコ:駅の階段の上り下りや車内で立っているのも運動になりますし、一駅手前で降りて早歩きするだけでも違ってきます。
西川:腕立て伏せや腹筋の時間が取れなくても、プランク(うつ伏せで前腕・ひじ・つま先で体を支える体勢をキープする体幹トレーニング)なら1分で汗だくになりますね。
ヨーコ:運動しなきゃ!と重く考えなくても「ながら運動」で十分です。家庭でも拭き掃除をするときに意識的に足を使ったり、ハーフスクワットの姿勢で料理したり、小さなことの積み重ねで時間や手間をかけずに運動不足は解消できます。
「まずやってみようよ」
西川:ヨーコさんは何かにトライするときや指導するときに、どのようなことを大切にしていますか?
ヨーコ:「まずやってみようよ」「とにかくチャレンジしてみよう」といつも声をかけるようにしています。
西川:日本人は「チャレンジして失敗したらどうしよう」と考えがちですね。
ヨーコ:私は渡米したばかりの頃に「ヨーコは無難なプレーをするね」と言われました。当時の日本では失敗すると怒られる指導法でしたので安全なプレーをするのが無意識のうちに習慣化していたのかもしれません。
西川:日本の社会全体にいえることですが、守りに入ったプレーでは成長しないですからね。
ヨーコ:ミスをしないことは「安定」するうえで大切ですが、実力をさらに伸ばすにはカラを破る必要があります。「失敗するかどうかやってみないとわからない。たとえ失敗してもリトライすればいいじゃない。そのうちできるようになるよ」と背中を押されました。それから、私自身、まずやってみるように心がけ、選手を指導する際にも念頭に置いています。
西川:失敗を恐れず一歩踏み出してみようということですね。
ヨーコ:パリ・オリンピックをきっかけに、一人でも多くの人が心と体を元気にして頂けることを願っています!
西川:日本選手を応援しながら、身近なことからチャレンジしてみたいと思います。ありがとうございました。
スポーツキャスター、プロバレーボールコーチ。米国・サンフランシスコ生まれ。母は世界選手権で銀メダリストの元日本代表バレーボール選手。父はスウェーデン系アメリカ人。6歳で母と日本に移住。早稲田大学人間科学部4年次にアメリカ女子バレーボールチームの「トライアウト」に合格。22歳で生地のアメリカ国籍を選択。
大学卒業後は内定していたフジテレビ入社、休職し渡米。全米代表選手として1992年スペイン・バルセロナ五輪で銅メダル。1996年米国・アトランタ五輪7位。