認知症研究の第一人者 浦上克哉 × 健康寿命をのばそう運動主宰 西川りゅうじん
認知症は“怖い病気”ではない!
~正しい理解と早期発見が大切~
65歳以上の高齢者の3人に1人が認知症!
西川:浦上先生が取り組んでおられる認知症は超高齢社会に突入した日本にとって最大の課題です。家庭にも地域にも大きな負担を及ぼしています。患者やその前段階の人の数はどれくらいですか?
浦上:認知症と診断された人が462万人。その予備軍が400万人。合計862万人です。65歳以上の高齢者人口の28%に当たります。
西川:つまり、高齢者の3人に1人が何らかの認知障害を持っているということですね!
浦上:他の病気と同じように患者より予備軍の方が少ないはずがありませんので、実際はもっと多いでしょう。
西川:一言で認知症と呼んでいますが様々なタイプがあるのですね。
浦上:「アルツハイマーと認知症は別ですか?」と聞かれることがよくありますが、アルツハイマー型も認知症の一つで全体の約6割を占めます。他にも、血管性認知症、レビー小体型、前頭側頭型があり、認知機能が低下する病気を総称して認知症と呼んでいます。
アロマテラピーが症状改善に効果あり
西川:認知症の症状が悪化すると、家族さえわからなくなったり、自宅の場所も忘れてしまう場合がありますね。 “あらゆる知が壊れていく病気”と呼ばれています。原因が解明されておらず、徘徊や暴力といった症状が現れることもあり、一たびかかると治らない恐ろしい病気だというイメージがあります。
浦上:認知症は誤解が多い病気なんです。“怖い病気”と言われますが、直接死を招くわけではありませんし、症状の進行もとてもおだやかです。徘徊や暴力といった症状は、ガンでいえば末期の状態です。近年は、治療法も確立され、早期に発見して薬を飲めば、そのような状態になることはありません。
西川:そううかがって少し安心しました。早期発見のためには、周囲の家族や友人はどんな点に気を付ければ良いですか?
浦上:日頃から行動を観察し、本人の変化に早く気付くことが大切です。初期症状としては、時間や曜日を何度も尋ねたり、外出がイヤになったり、腐ったモノを食べてしまうことなどが挙げられます。
西川:もの忘れはよく知られた症状ですが、腐ったモノを食べるのはなぜですか?
浦上:認知症は、記憶障害より先に、嗅覚障害が起きるからです。しかし、嗅神経は再生能力が高いため、メディカル・アロマテラピーによる予防法や治療法が確立されています。
西川:アロマが認知症に効くというのは意外です。しかも、アロマなら日常生活に取り入れやすいですね。どのように利用すれば良いのですか?
浦上:昼間と夜寝る前で別々の香りが効果的です。昼間はローズマリー・カンファーとレモンで認知症を改善し、夜は真正ラベンダーとスイートオレンジでリラックスします。
西川:どちらの香りも頭がスッキリしそうですね。認知症にならないためには、どんな生活習慣を心がければ良いのでしょうか?
浦上:「コミュニケーション」「運動」「知的活動」の3つが大切です。普段から人と関わり、ウォーキングや水泳など有酸素運動を行ってください。頭を使い手を動かすことも習慣づけると良いですよ。
西川:やはり、日々の生活習慣が大切なのだとわかりました。自分自身と家族で毎日の生活に気を付けていれば、認知症など怖るるに足らずですね!
浦上:認知症の早期発見のためには、家族が最初の診断に付き添って来られると、普段どんな生活をしているかがわかって、医師が正しい診断をしやすくなります。認知症の症状のある人は、病気だと思われたくないという気持ちから、思い出したフリをして取りつくろったりすることがあるんです。
西川:そのためにも、周囲が気づいてあげることが大切なのですね。早期発見で治療もラクになり、症状もおだやかになるのは、本人のみならず、家族も大いに助かります。ところで、年を取ると認知症でなくてもモノ忘れしやすくなりますが、認知症かそうでないかはどこで判断すれば良いのですか?
浦上:通常のモノ忘れが内容の一部を忘れてしまうのに対して、認知症は内容自体を忘れてしまいます。例えば、夕食の献立のうち、1つを忘れてしまうのが通常のモノ忘れ、夕食を食べたこと自体を忘れてしまうのが認知症なのです。
西川:なるほど。それは忘れ方のレベルがまったく違いますね。「ウチの嫁はごはんを食べさせてくれない」などと近所の人にふれまわるおばあちゃんの話を聞きますが、それは認知症によるものなのですね。
浦上:はい。認知症特有の言葉や行動を知れば、病気がそうさせているのだと納得できるものです。やさしさと思いやりを持って接すれば、症状の悪化を抑えることもできます。
西川:他にはどんな特有の症状がありますか?
浦上:料理を作っていたのを途中で投げ出してしまったり、外出するのがイヤになるといったことがあります。それは料理の手順を忘れてしまったり、外出の際に途中でモノ忘れしたらどうしようと思うことから来ているのです。
西川:「認知症になったらイヤなことを忘れられるから気がラクでいいね」などと言う人もいますが、そんなことはありませんね。
浦上:その通りです。認知症はイヤなことを忘れるのではなく、大切なことまで忘れてしまうため、本人にとってもツライのです。
西川:当事者の立場に立った対応が必要なのですね。ところで、日常の食生活の中で認知症を予防するために、どんな点に気を付ければよいですか?
浦上:マスコミでこんな食品がいいというと、その食品ばかりを一生懸命食べる人がいます。その食品の成分が認知症を改善するという短期的なデータが出ていたとしても、長期的なエビデンスは得られていないものがほとんどです。また、成分が優れているからといって、日本人の体質やライフスタイルに合っているのかどうかの検証も必要です。ですから、一つの食品に頼るのではなく、バランスの取れた食事が何よりも重要です。
西川:たしかにテレビなどで「これがいい!」と言われた食材に飛び付いて、そればかり食べるのはよくありませんね。認知症は、個人や家庭での対策も重要ですが、超高齢社会の現在、官民を挙げた対策が必要でしょう。
浦上:認知症の問題は、市町村ごとで各地域によって実情が違いますから、自治体ごとの取り組みが大切になります。
西川:各地域における取り組みには、どのような事例がありますか?
浦上:鳥取県の琴浦町では、2004年から、65歳以上の高齢者を対象に、私が開発したタッチパネル式コンピュータによる「もの忘れスクリーニング検査」を行っています。そこで、得点の低かった人には、認知症予防教室を受ける対策が整っており、認知症の早期発見と予防に役立てられています。
西川:10年以上も前から取り組んでいる自治体があるんですね。そういった取り組みは各地で増加傾向にあるのでしょうか?
浦上:近年は、取り組みの重要性を認識した市町村が増えています。神奈川県でもいくつかの市町村から講師にお招きいただいています。
西川:そういった仕組み作りに積極的に取り組んで、個人も家庭も自治体も、「認知症なんて怖くない!」と言えるようにして行かねばなりませんね。浦上先生、誰しもが知っておくべき認知症に関する大切なことを、わかりやすくお教えいただき、ありがとうございました!
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