渋谷健司 × 西川 りゅうじん 【知っ得健康対談】

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健康寿命をのばそう運動主宰 西川りゅうじん × 公衆衛生の世界的リーダー渋谷健司

家族・職場・地域で健康づくり
~“公衆衛生”が健康寿命をのばす!~
対症療法のCureより日常的なCareが大切

西川:渋谷先生がおっしゃっている“公衆衛生”とは、私たちの健康と医療は世の中のことすべてとつながっているという考え方ですね。

渋谷:その通り!健康づくりも医療も病院やクリニックがあれば成り立つのではなく、地域みんなで創り上げて行くことが大切です。対症療法でCure(治療)するだけでなく、日常的にどのようにCareして行くかです。地域の皆さんが健康でなければ街は元気に成り得ません。りゅうじんさんが手掛けているまちづくりの真ん中に医療があるのです。認知症の患者が増えていますが、本人や家族や医師だけでなく、地域全体で、日々、サポートして行くことが大切になって来ます。

西川:なるほど、先生が座長としてまとめられた2035年に向けた「保健医療2035」のビジョンに描かれているようにですね。

渋谷:現在の制度を無理に維持しようとすれば、一人一人の負担を上げて給付が下がるという暗い話になりがちです。しかし、20年後を見すえて将来のあるべき姿を考えた場合、どのような手を打つべきかという今を生きる私たち自身へのメッセージです。

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日常的に相談できるかかりつけ医を持とう!

西川:日常的に相談できる「かかりつけ医」「かかりつけ薬剤師」を持つことの重要性も「保健医療2035」で提唱しておられますね。

渋谷:近年、病気を患った人の中には、あちらこちらの病院でもらった薬を飲み過ぎて、結果的に体を悪くしているケースも少なくないんです。

西川:体調を崩すまで病院にほとんど行かず、病気になったら今度はいくつもの病院に行き、薬を飲み過ぎる極端な人が跡を絶ちません。

渋谷:最近も5カ所の医療施設からもらった15種類もの薬を飲んだことが原因で意識障害に陥り救急搬送された人がいました。必要なものだけにすると運良く2日で回復しましたが、薬の飲み過ぎには注意が必要です。

西川:心配性で病院に行くのが怖くて健康診断も受けない人が、病気になると心配になって逆にやり過ぎてしまうんですね。

渋谷:毎年、健康診断を受診している人でも、「タバコをやめなさい」「太っているから運動しなさい」と注意されても、発症して日常生活に支障を来さない限り、なかなか変わりません。本人だけでは生活習慣は簡単には改善しづらいものです。健康とは家庭や働き方、地域など周囲からの影響が大きいのです。

西川:一人一人の健康は、家族、職場、地域のみんなで守って行くしかありませんね。首都圏は一人当たりの医師の数が少ないことも気がかりです。

渋谷:そうですね。しかし、医師がすべてを担うのではなく看護師や薬剤師もいっしょにサポートしています。健康づくりのために、ぜひ、かかりつけ医やかかりつけ薬剤師を持っていただきたいです。また、生活習慣や働き方を見直すことこそが健康につながります。家族や職場の仲間でお互いの健康を意識し合うことが大切です。

西川:日本は寿命も健康寿命も世界のトップレベルですが、2つの差は男女ともに約10年もあります。寝たきりや認知症になって過ごす時間を縮めるにはどうすれば良いのでしょう?

渋谷:まず一人一人が自分の健康は自分で守ることが大切です。しかし、個人と医療関係者だけでは守れません。人によって家族によって仕事によって地域によって状況は異なります。家族は家族、職場は職場、地域は地域、みんなで健康づくりの仕組みを作って行きましょう!

西川:まさに“公衆衛生”こそが健康寿命をのばすカギなんですね。

西川:渋谷先生は「保健医療2035」の中で、人口減少と超高齢社会に向けて、地域における医療制度のあり方自体が変わって行くべきだと指摘しておられますね。

渋谷:もはや国が一律にどの地域でも同じ医療を提供すべき時代ではありません。今後は、全国一律ではなく、横浜市ならば横浜市、あざみ野ならばあざみ野における、おのおのの地域のニーズに合わせた医療に変わって行くべきですし、行かざるを得ません。

西川:実際、地域によってかなり住民の特性やライフスタイルも異なりますからね。例えば、運動に関してでも、大都市部に住んでいる人たちは移動に鉄道を利用することが多いので、頻繁に駅で階段を昇り降りしますが、地方では一人が一台ずつ自分のクルマを持つ車社会でほとんど歩きません。また、食事に関しては、塩分の摂取量ひとつ取っても地域によって差があります。

渋谷:長野県では県を挙げて減塩運動を実施したことで、寿命も健康寿命も延伸しましたね。

西川:昔から医食同源と言われますが、今でも食に関する地域差は厳然と存在します。和食が世界遺産に登録されましたが、伝統的な和食はほぼパーフェクトに近いほど栄養バランスは良いものの、塩分が多いのが玉に傷ですね。

渋谷:カロリーも低いし、野菜もたくさん摂れますが、塩分の摂り過ぎになる恐れがあります。また、フルーツやナッツ類も少ないですし、偏っている点もあります。それから、意外に知られていないのですが、実は和食には砂糖が調味料として相当に使われているんです。

西川:和食の懐石料理などにも砂糖が結構使われているらしいですね。太らないし健康にいいと思って和食中心にしていても、知らない内に糖分の摂り過ぎになっている可能性もあります。和食は、本来、砂糖を使わなくても、昆布とかカツオ節とか旨みを出す方法は他にもあるわけですからね。

渋谷:最近は以前より減って来ているとは思いますが、それでもかなり和食には砂糖が使われています。今やフランス料理でもカツオ節を使ったりしますし、そもそもフランス料理やイタリア料理は、あまり砂糖を料理に使いません。

西川:それに、日本では毎日のように、テレビやネットにスイーツの情報があふれかえり、お店には行列ができています。「スイーツは別腹」などと言って、男性も女性も砂糖の過剰摂取の危険性がほとんど認識されていません。糖分は肌を糖化させ、シワを刻み込むお肌の大敵でもありますからね。

渋谷:イギリスでは砂糖の過剰摂取がホットトピックになっています。大英帝国勲章も受勲しているセレブシェフのジェイミー・オリヴァーらが中心になって、「砂糖は危険だ!」「低脂肪でも砂糖が大量に入っている食事は健康に良くない」と訴えています。

西川:塩も砂糖も精製した白い粉末は、もともと自然界には存在しない工業製品ですからね。

渋谷:それから、日本のもう一つの重要な課題はタバコです。2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、健康作りの象徴として、「タバコ・フリー・オリンピック」を目指しているんですが、まだまだ浸透していません。

西川:あざみ野も含めて横浜市、神奈川県はタバコによる健康被害に関する住民の意識が高く、規制も進んでいます。
横浜市内は全域ポイ捨て禁止で、違反すると2万円以下の罰金を科される場合があります。
また、条例で定められた、主要駅周辺エリアを中心とする「喫煙禁止地区」(横浜駅周辺、みなとみらい21地区、関内地区、鶴見駅周辺、東神奈川駅周辺、仲木戸駅周辺、新横浜駅周辺)では路上での喫煙も禁止です。
それに、神奈川県は全域で、 受動喫煙による健康への悪影響から県民を守るために、学校、病院、商店、官公庁施設などは禁煙ですし、飲食店、ホテルなども禁煙または分煙が義務付けられています。

渋谷:横浜市、神奈川県の取り組みを東京都はもちろん全国に広げて行かねばなりませんね。「タバコ・フリー・オリンピックがモスクワや北京でできて、何で東京でできないんだ!」という風潮が盛り上がれば東京も変わるでしょう。

西川:できないはずがありませんね。ただ一方で、アメリカでマフィアがはびこった禁酒法時代のように過度にシャットアウトしようとすると、地下で広がったりレベルの低いものが出回ってより危険な事態に陥り兼ねません。

渋谷:おっしゃる通りで、禁止ではなく、選択肢を提示して行くことが大切ですね。そして、一人一人が意識の部分でより健康な方向に向かうように環境づくりをして行きたいものです。

西川:食事も運動も禁煙も、結局、健康づくりは日常の生活習慣の積み重ねですね。人間の行動にも慣性の法則があって、良い習慣をつければ良い方向に向かいますし、その逆もある。

渋谷:そうです。でも何でも楽しくないと続きません。だからこそ、家族や地域の友達や職場の仲間同士でお互いの健康を意識し合うことが大切なんです。みんなで手を携えて健康習慣を身に付けて行きたいですね!

西川:渋谷先生からお話をうかがって、公衆衛生とは、そして、健康づくりとは、自分自身のハートと、家族や地域や職場のみんなのハートをつないで、お互いの思いやりの気持ちを通わせることなんだなとわかりました。ありがとうございました!

渋谷健司先生 トピックス

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「JIGH」国際保健フォーラムで伊勢志摩サミットに向け提言
渋谷先生が理事長を務める医療領域の問題解決に取り組むシンクタンク「JIGH」は、国際ラウンドテーブル「GGG+フォーラム2016」を共催。G7伊勢志摩サミットに向け、グローバルヘルスの課題などについて議論し、日本がリーダーシップを発揮することで合意した。