下北沢トモクリニック院長 村上知文先生 × 参議院議員・前神奈川県知事 松沢成文先生 × 健康寿命をのばそう運動
主宰 西川りゅうじん氏
今日からいっしょに《卒煙》!
全国初の受動喫煙防止条例を作った神奈川県が日本をリードしていこう♪日本のアンチエイジングの先駆者
西川:2018年7月、受動喫煙の対策強化を盛り込んだ健康増進法改正案が可決され、東京五輪が開催される2020年度より実施される運びとなりました。全国に先駆け、松沢先生が神奈川県知事として受動喫煙防止条例を制定されたことが大きなターニングポイントとなりました。松沢先生と村上先生は受動喫煙防止の立役者です。何がきっかけとなったのですか?
松沢:受動喫煙防止に取り組み始めたのは、知事1期目の欧米視察で各国のたばこ対策に触発されたことです。2003年にWHO(世界保健機構)でたばこ規制の条約が全会一致で採択されたことを受け、各国ですみやかに法律を整備し、ホテルもレストランも既にほぼ禁煙でした。
西川:同じ条約を批准しているのに、日本は禁煙対策で恥ずかしい世界最低水準の評価ですからね。
松沢:国が対策を進められないのなら神奈川県からやってみようと、2期目の選挙公約の一番上に「公共的施設における禁煙条例の制定」を掲げました。そして、選挙に当選し、公約実現のために規制を進める義務と権利をいただき、条例づくりに着手しました。
村上:松沢先生が推進してこられたたばこ対策は、本来、われわれ医師がやらねばならないことです。医師法の最初に「公衆衛生の向上及び増進に寄与し、国民の健康な生活を確保する」とあります。患者を診るだけが医師の仕事ではありません。国民の健康を害することがあれば、対策を講じなければなりません。そんな医師がやるべきことを松沢先生が進めておられるのですから、応援しなくてはならないと感じました。
松沢:村上先生には、私が知事のときから、会長としてリーダーシップを執って医療関係者を集め、たばこ対策に取り組む勉強会を結成していただいています。
村上:会では、松沢先生からうかがうたばこ対策の進捗状況を踏まえて、取り組み事例を学び合い、意見交換と助言を行ってきました。
西川:まさに二人三脚で対策を進めてこられたわけですね。全国初の条例制定は至難の技だったに違いありません。
松沢:2期目の当選後すぐに条例づくりに取り掛かりました。しかし、独善的に進めると反発を招きかねません。そこで、タウンミーティングや業種別の懇談会を開き、有識者や医師、また規制を受ける側の飲食業界や娯楽産業などの経営者からも意見を聞いて民主的に進めました。条例制定に漕ぎ着けられたのは、村上先生をはじめ医師の先生方はもとより、神奈川県民が後押ししてくださったお陰です。
喫煙は死に至る病気の予防可能な最大の原因
西川:村上先生はどのような想いで啓蒙活動に携わってこられたのでしょうか?
村上:活動の根本には、たばこのために苦しんでいる患者や肺がんなどのがんで亡くなる人達を放っておくわけにはいかないという想いがあります。たばこは中毒性があるので、なかなかやめられず、禁煙治療でやめられるのは6割ほどだといわれます。根本的な解決には、たばこを容易に吸える環境を無くさなければなりませんし、すべての人にたばこに関する正しい知識を持ってもらう必要があります。
西川:日本は先進国の中ではもちろん、途上国と比べても比較的、たばこが容易に買える環境にありますね。
村上:禁煙治療中でもコンビニや自動販売機で簡単に買えてしまうので、また吸ってしまう人が少なくありません。海外のたばこのパッケージには、グロテスクな末期がんの人の顔やレントゲン写真が載っていて、有害さが一目でわかります。一方、日本のたばこのパッケージはお洒落で手に取りやすいのが問題です。
松沢:街中にたばこの自動販売機があるのは日本くらいです。WHOのたばこ規制枠組条約では自動販売機を認めていません。ドイツにはTaspoのような本人認証ができる販売機がありますが、アメリカではたばことお酒は対面販売でしか売りません。
西川:日本は禁煙途上国どころか後進国ですね。村上先生が伝えたい正しい知識とはどのようなことでしょう?
村上:喫煙者のほとんどは、たばこに何が入っているのか知らずに吸っています。たばこには、ゴキブリ駆除剤やネズミ駆除剤、殺虫剤の成分、毒薬のヒ素、シンナーの主成分など有害物質が200種類以上も含まれています。成分の一覧表を見れば、誰しも「たばこをやめたい」と思います。
西川:日本人の死因の2人に1人はがんで、その最大のトリガーの一つがたばこであることは明らかでしょう。
村上:WHOが「喫煙は病気の原因の中で予防可能な最大の原因」と位置付けている通り、肺がんはもちろん、喉頭、胃、膀胱、肝臓などのがん、また、心筋梗塞、脳卒中といった恐ろしい病気の発症への関与がわかっています。
たばこが働き盛りの喫煙者の労働効率を下げる
西川:日本より前からたばこ対策に取り組んできた国々では実際に効果は出ていますか?
松沢:例えば、イギリスでは10年以上、たばこを規制した結果、心筋梗塞や脳卒中で救急車で運ばれる人が減っています。欧米では、たばこ対策に取り組めば、国民の病気が減ることで長期的に医療費が減少し、国家財政に寄与すると考えます。3大生活習慣病のがん、心筋梗塞、脳卒中にたばこの関与は明白ですから、日本でも喫煙者と受動喫煙を減らせば医療費が減少するメリットがあるはずです。
西川:人口減少が本格化する中、社会保障費が減ればいいですね。アジアではどうでしょう?
松沢:韓国でも約10年前まで、たばこ会社は国が所有していましたが、完全に民営化し、たばこ規制法ができました。そのため、今や飲食店でも絶対に吸えません。欧米だけでなく、アジア各国でも世界的な健康志向の高りを受け、たばこの規制が当たり前になっているのに、日本だけが取り残されているのです。
村上:「働き方改革」が叫ばれていますが、たばこは働き盛りの喫煙者の労働効率を下げています。会議の休憩ごとに吸う人はドーッと吸える場所に移動して戻っての繰り返しで、時間のロスがバカにならない。また、吸っている間は血管が収縮して血が濃くなり、血液の循環が悪くなって、吸えば吸うほど考えがまとまらなくなる。ことほどさように、たばこは労働生産性を下げるのです。喫煙者を採用しない企業も出てきていますが、労働効率の点からも、たばこ対策を進めるべきです。
西川:欧米にならって、経済産業省と東京証券取引所は、厚生労働省と連携しつつ、2015年から「健康経営銘柄」を公表しています。日本でも、従業員の健康増進に投資する「健康経営」を心掛けている企業は、業績や株価もプラスに作用する場合が多いのです。社員の心身が健康であれば生産性が向上するのは当然ですね。
「今日からいっしょに《卒煙》しよう!」
松沢:たばこは法律で禁止されていない嗜好品ですから、喫煙する自由はあります。でも、たばこを吸わない人が、吸っている人の煙を吸わされて健康被害をこうむるのは理不尽ですね。ですから、まず、吸わない人をたばこの煙から守って健康社会を作ろうと受動喫煙防止条例を制定しました。しかし、問題の根本は喫煙者を減らすことです。喫煙者が減れば受動喫煙も減るわけですから。
西川:喫煙者を減らすために、具体的にはどんな取り組みを行ったのですか?
松沢:村上先生をはじめ医師会の先生方に大きなお力添えをいただき、禁煙治療が保険適用になりました。ニコチン依存症の病気として保険適用で治療し、ニコチンパッチのみならず、経口薬も処方できるようになりました。こうして、禁煙治療の医療体制が確立されたのは効果絶大でした。また、神奈川県知事の時、もう一つ、受動喫煙対策として、「神奈川卒煙塾」を開塾しました。
西川:たばこを卒業する「卒煙」とは、いい表現ですね。
松沢:禁煙という言葉に抵抗を感じる喫煙者も少なくありません。だから、「卒煙しよう!」と呼び掛けたのです。「卒煙塾」とは、たばこが健康に良くないと気付き、努力してやめようという人には、家族とともに行政もサポートしますよという会です。塾長は、元は超ヘビースモーカーで、刑事ドラマでたばこ吸っているイメージのあった舘ひろしさんにお願いしました。舘さんは実際に経口薬で卒煙に成功されているので、「一緒に卒煙しよう!」と言っていただいたお陰で、たくさんの塾生が集まりました。
たばこが原因で人生を台無しにする人をなくそう!
西川:近頃、増えている女性喫煙者にはどのように伝えればよいでしょうか?
村上:喫煙を続けると、たばこに含まれるさまざまな有害物質が肌に影響を及ぼして、同い年でも見た目が親と子ほどの違いになってしまうことさえあります。顔や肌だけではなく、がんをはじめリウマチなどあらゆる病気の原因となるなど、体の中にもいろいろなマイナスを引き起こします。妊娠したらたばこをやめればいいというものではありません。体内に蓄積した有害物質が、お子さんに影響する可能性もあります。
西川:大人の喫煙者を卒煙させることも大切ですが、若いうちからたばこを吸わないようにする教育こそが重要ですね。
松沢:その通り!40代50代で、たばこを吸い始める人はいません。たいてい、10代後半から20代前半で吸い始め、やめられずに吸い続けるのです。喫煙の習慣が付くとなかなか卒煙できません。喫煙者を減らすには、中学や高校からの禁煙教育が非常に大切です。
西川:どんなスポーツでもトップアスリートになって活躍するには、たばこを吸っていると絶対に不利です。音楽アーティストも喫煙し続ければ、大切な声を失う可能性があります。ですから、若者があこがれるスポーツ選手や音楽アーティストから、「たばこはアウト!」という風潮を作れるといいですね。スポーツや音楽は言葉を労さずとも社会を動かします。また、消費者が経済を動かし、有権者が国と地域の行く末を決めるわけですからね。
村上:たばこが原因で健康を害し、人生を台無しにする人をなくしたいですね。ステキな女性が自分自身で顔や肌を傷つけてほしくないですし、未来のお子さんの健康な人生を奪う権利はありません。たばこのために病気になる人が減れば、本人も家族も幸せですし、企業は生産効率が向上し、国も地域も相当な医療費削減につながります。
松沢:IOC(国際オリンピック委員会)とWHO は「たばこのない五輪」を推進しています。2008年以降のオリンピック・パラリンピックのすべての開催国では、罰則付きの受動喫煙禁止措置を採っています。私達一人ひとりが健康寿命を伸ばすとともに、世界中の人々に来ていただくためには、「日本には受動喫煙はありません」と胸を張って言える国にしていくべきです。全国初の受動喫煙防止条例を作った神奈川県の皆さんとともに、これからも日本をリードしていきましょう!
西川:松沢先生、村上先生、わかりやすくお話をたまわり、ありがとうございました。
【神奈川県公共的施設における受動喫煙防止条例について】
神奈川県公共的施設における受動喫煙防止条例とは神奈川県では、受動喫煙による健康への悪影響から県民を守るための新たなルールとして「神奈川県公共的施設における受動喫煙防止条例」を制定しています。この条例では、不特定又は多数の者が出入する室内又はこれに準ずる環境を対象としています。学校、病院、商店、官公庁施設など(第1種施設)→禁煙飲食店、ホテルなど(第2種施設)→禁煙又は分煙施行日 平成22年4月1日
(神奈川県のホームページより)
【「かながわ卒煙塾」について】
たばこをやめたい方とその方を支える家族などを対象に、市町村や県内の医療関係者と協働して進める「かながわ卒煙塾」では、喫煙者がたばこをやめるきっかけとなる「卒煙チャレンジ講座」を開講し、喫煙者が卒煙に取り組むきっかとなるよう、たばこを吸わないことのメリットを考えるとともに、楽しい卒煙方法や卒煙の勧め方等を学びます。
「卒煙チャレンジ講座」の内容
講演
講師 医師、歯科医師、薬剤師等が、講演を行います。
情報提供 保健福祉事務所等から、禁煙サポート事業などを案内します。
個別卒煙相談 医師等により、卒煙についての個別相談を行います。
呼気一酸化炭素濃度測定 希望者の方に対して測定を行います。
主催・申込先
公益財団法人かながわ健康財団がん対策推進本部
〒231-0037 横浜市中区富士見町3-1(神奈川県総合医療会館内)
電話:045-243-6933 FAX:045-242-2939 MAIL:sotsuen@khf.or.jp
(神奈川県のホームページより)
【職場の受動喫煙防止対策の現状について】
(出典:平成19年、24年「労働者健康状況調査」、平成23年労働災害防止対策等重点調査、平成25年労働安全衛生調査(実態調査))
実施機関 厚生労働大臣官房統計情報部
調査の範囲 [事業所] 約13,000事業所(常用雇用者を10人以上雇用する民営事業所から層化抽出法により抽出)
[労働者]約18,000人(上記事業所に雇用されている労働者のうちから層化抽出法により抽出)
参議院議員。希望の党代表。
神奈川県知事として受動喫煙防止条例を全国で初めて制定。
(一社)スモークフリージャパン代表理事。
下北沢トモクリニック院長。
昭和大学医学部客員教授、東京医科大学病院地域医療指導教授。
松沢氏と共に受動喫煙防止に尽力。