「脳MRI健診」の提唱・創始者 水町重範 × 健康寿命をのばそう運動主宰 西川りゅうじん
運転者の脳内出血による事故を防げ!
~安価になった「脳MRI健診」で早期発見・早期治療~
運転者の体調急変が原因の命を奪う大事故が多発
西川:近年、軽井沢スキーバス転落事故や大阪の暴走事故など運転者の体調の急激な変調によって数多くの人命が失われる大事故が多発しています。水町先生が早くから警鐘を鳴らしておられたことが現実になってしまいました。
水町:あってはならないことですね。こういった事故は「健康起因事故」と呼ばれますが、心筋梗塞などの心臓疾患、睡眠時無呼吸症候群、脳梗塞やクモ膜下出血など意識障害を伴う脳の出血性の病変が原因で起こるものです。特にクモ膜下出血は「気分が悪いからちょっと停車しよう」などと考える間もなく意識を失ってしまいます。その時、運転者本人が対処することはほとんど不可能です。
西川:国土交通省の統計でもバスやトラックなど事業用自動車が引き起こす重大事故のうち、3分の1強は運転者の脳疾患が原因になっています。
水町:クモ膜下出血の88%は脳内の動脈瘤の破裂が原因で起きています。ですから、運転者の脳動脈瘤の有無さえ調べられれば多くは未然に防げるんです。本来は免許を取得する人が全員、脳のMRI健診を受けるのがベストですが、まず運転を仕事にしている人に健診を受けてもらえるよう、「運転従事者脳MRI健診支援機構」を設立し、行政や企業に働きかけを始めたわけです。
ハンドルを握る人の「脳MRI健診」を常識に!
西川:MRIによる本格的な脳の検診である「脳ドック」は以前からありましたが費用が高額なので運転の仕事に従事する人すべてが受けるのは非現実的でした。
水町:脳ドックを受診するには6~7万円はかかるので広く多くの方に受けてもらえるものではありませんでした。一方、「脳MRI健診」は脳動脈瘤の検査に絞っているので受診料も2万5千円ほどです。一度検査して動脈瘤があるとわかれば2回目からは経過観察として保険も適用されます。
西川:負担が軽減されますので、運転従事者は自分と家族のためにも、乗客の命を預かる身としても受けていただきたいですね。
水町:総務省の統計でも日本で運転を職業にしている人は330万人います。その方々の家族も含めて約1000万人もが運輸事業によって生活しているわけですから、国の基幹産業の一つだと言えます。ですので、「脳MRI検診」とは運転者自身の健康管理のみならず、社会全体のリスク回避でもあるわけです。
西川:運転従事者はクルマのみならず日本経済のハンドルも握っているわけですね。
水町:脳MRI検診推進議員連盟や医師会などの支援もあり、トラック・バス・タクシーの事業会社の中で運転者の検診を受けるところも増えています。しかし、採算が取れないと二の足を踏む企業も少なくありません。
西川:コスト競争が厳しいのはわかりますが、安全を軽視すれば必ずツケが回って来ます。運転者が健診を受けている会社を、利用者が選別して利用する時代が来るでしょう。
水町:健診を受けた事業者には「脳MRI健診推進事業者証」を、運転者には健診済証をお渡ししています。今後は、こういった健康起因事故の予防をはじめ「社会・環境医学」がますます重要になってきます。
西川:医療・政治・経済をはじめ、あらゆるセクターがタッグを組んで取り組むべき課題ですね。
◆社会問題化する「高齢プロドライバー」と定年のない「個人タクシー」
西川:「社会・環境医学」の視点から考えたときに、バスやタクシーの運転従事者の高齢化がますます進みつつあることは大きな問題ですね。近年、訪日外国人観光客の増加によってバスの需要が急激に伸び、人手不足のために高齢の運転従事者を雇うケースが増えています。現在、バスの運転手の平均年齢は、全産業より6歳も高く、60歳以上の割合が16.4%にのぼります。つまり、6人に1人が60歳以上で、さらに高齢化しつつあります。
水町:同様にタクシー運転手の高齢化も進んでいますが、特に心配なのは個人タクシーの運転手の高齢化です。法人のタクシー会社のサラリーマン運転手と異なり、彼らは個人事業主なので定年がないんです。しかも、高齢になると、道路事情から昼間は走りづらいため夜中に仕事をしている人が多いようです。昼夜が逆転した生活をすることで、ますます動脈硬化を助長しかねません。
西川:先生ご自身も、そういった個人タクシーの運転手の方を診察されたことがありますか?
水町:もちろんです。最近でも2015年の年末に「脳MRI検診」を受けて、お正月休みに入るギリギリに所見が出てきて、その結果を見て、すぐお薬をお渡しした患者がいました。年が明けて、初仕事から帰ってきたら足がもつれて玄関から上がれなくなりました。救急車を呼んで搬送されているときに、お渡していたお薬が見つかったらしく、そのまま脳外科に連れて行かれたんです。すぐに脳血栓の溶解をはじめて、10日くらいで退院されました。
また、他の個人タクシーの運転手の事例では、「脳MRI検診」の結果を見ると頭の血管がボロボロで、検査すると血糖値が400もあるとわかり、即、東京医大病院に入院することになった患者さんがいました。その方のお嬢さんがクリニックに来て言うんです。「これでようやくお父さんに仕事を辞めさせることができます」って。
西川:そういった個人タクシーの運転手の人にとっては、運転自体が、もはや仕事を超えて、ライフワークになってしまっているんですね。そうなると、認知症にでもならない限り、家族も無理に辞めさせるわけにも行きません。しかし、運転手が急に気を失ったらクルマは凶器と化します。ハンドルを握るからには、まず絶対に安全運転できることが前提ですからね。
水町:その通りです。個人タクシーの運転手の場合、クルマと運転が好きで仕事を続けられている場合が多いんです。その喜びを奪ってしまうことには胸が痛みますが、「社会・環境医学」の視点から、健康起因事故を予防するために社会にとって必要なことだと思い、心を鬼にして説得しています。
◆40歳過ぎたら、乗るなら「脳MRI」受診、受診しないなら乗るな!
西川:先生は「運転従事者脳MRI健診支援機構」を関係者とともに設立され、まずはバスやトラックやタクシーなどの運転を仕事とする人全員が検診を受けるよう社会に働きかけておられますが、運転を仕事にしている人のみならず、ハンドルを握る人は誰しも、「脳MRI検診」か「脳ドック」を受診した方がいいですね?
水町:当然のことです。いかに健康に自信があっても、病気をしたことがなくても、40歳以上の運転をする人には基本的に受診していただきたいです。本人にまったく自覚症状がなくとも、急に動脈瘤が破裂することもあり得ます。しかし、「脳MRI検診」を受診すれば、そういったケースは限りなくゼロに近づきます。また、脳の血管が成長するにつれて脳動脈瘤ができることが先天的に決まっている人もいます。そういう方も、早めに脳動脈瘤を発見し、経過を診て行けば危険性を低下させることも可能でしょう。
西川:運転するときには、自分だけでなく、家族や友人を乗せる機会もあるでしょうし、急に意識を失って事故を起こせば、数多くの罪のない人を巻き添えにしかねません。ハンドルを握るならば、「脳MRI検診」を受けることを常識にして行かねばなりませんね。私も、毎年、受診するよう心がけています。
水町:そうですね。いずれは、運転免許を所持する人全員が受けるようになってほしいと思います。その前に、まずは運転を仕事にしている人全員が検診を受する世の中にして行かねばなりません。
西川:「脳MRI検診」や「脳ドック」は、どこで受診すればよいですか?
水町:「運転従事者脳MRI健診支援機構」のホームページを見ていただければ、私どもの「水町エム・アールクリニック」をはじめ、全国の受診できる医療機関をご紹介しています。あるいは、脳神経外科、神経外科のある病院やクリニックに相談すれば受診できるところを教えてくれると思います。
西川:「乗るなら飲むな、飲むなら乗るな」は当たり前ですが、「乗るなら(脳MRI)受診、受診しないなら乗るな」を当たり前の世の中にして行かねばなりませんね。私たち一人一人が「社会・環境医学」の視点を持って、「健康起因事故」をみんなで予防して行くことが大切だとわかりました。ありがとうございました。
ドライバーの脳動脈瘤の有無を調べる「脳MRI検診」、本格的な「脳ドック」をはじめ全身のMRI、CTの撮影・診断ができる。慶應義塾大学病院脳神経外科の優れた画像診断医師によるバックアップ体制により高い信頼性が担保されている。
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