草間かほるクリニック医院 草間香氏×健康寿命をのばそう運動主宰 西川りゅうじん氏
2~3人に1人が抱える身近な病気お尻の悩みを一人でガマンしないで!
西川:お尻の悩みはからだのトラブルの中でも他人に相談しづらいデリケートな問題ですね。
草間:基本的には痔は死に直結しませんが、放置して悪化すると大変につらい生活習慣病の一つです。人間は食べることと出すことは死ぬまで続きます。「痛くないから大丈夫」などと勝手に判断するのは危険です。
西川:痔の患者はどのくらいいるのですか?
草間:ヒトがサルから進化して二足歩行になった時から宿命づけられた誰でもなる可能性のある病気です。程度の差はあるものの、日本人の2 ~ 3人に1人が痔だと考えられます。
西川:そんなに多いのですか⁉ 痔といえば男性がなるイメージが強いですが、女性の患者も少なくない?
草間:患者の数は男女でほとんど差がありません。ただし、女性の場合、医師が男性だと恥ずかしくて受診できずにガマンしたり、痔の悩みを彼氏やご主人にも内緒にしている人が大勢いらっしゃいます。血液の循環が悪いことや排便異常が原因になりやすいので、妊娠や出産の機会を持つ女性は、男性より痔になりやすいといえます。
西川:痔には3種類あるのですね。
草間:大きく分けて、いぼ痔、切れ痔、痔瘻(じろう)の3種類です。いぼ痔は肛門に腫れができることで、男女ともに最も多い痔。切れ痔は、排便のときに肛
門付近が切れたり、裂けたりするもので、女性に多いタイプです。痔瘻は、肛門付近にウミがたまったり、肛門の内外がトンネル状につながったりするものです。
西川:痔を放置するとどうなるのですか?
草間:つらい痛みやはれで、ますます排便が困難になるなど、日常生活に支障が出ます。いぼ痔が大きくなると、排便の後に自分で押し込めないと戻らなくなったり、クシャミや大笑いでお尻からポロッと出てきてしまいます。痔瘻はまれにガン化することがあるので要注意です。
西川:治療しても再発することがありますか?
草間:手術で痔が治っても、生活習慣を元に戻してしまったり、肛門に負担をかける生活をしていると、何年後かにまた症状が出てしまうこともあります。
一日3食バランスのよい食事が大切
西川:やはり、日々の生活習慣が大切なのですね。どのようなことに気を付ければいいのでしょう?
草間:まずは快便!!便意を感じたらガマンぜずにトイレに入って軽くいきんだらスルッと出て、むいたバナナのような形で、水の中に落ちても崩れない硬さの便が理想です。
西川:毎日出ないと便秘ですか?
草間:排便のリズムは個人差があります。毎日でも2.3日に1回でもスッキリ排便があればその人にとって快便です。排便回数よりもトイレに行くのを我慢せず、規則正しい排便のリズムをつくることが大事ですね。
西川:快便のためには食事と運動ですね。
草間:はい。まずは食生活を見直し、一日3食バランスよく摂りましょう。白米を食べることで便の量になり良い便を出しやすくなります。せめて1日のうち
2食は白米を食べてほしいですね。それから水分です。毎日1.5 ~2リットルの水分を摂りましょう。美容のためにも、快便のためにも水分はとっても大事。
西川:どんな運動がよいのでしょうか?
草間:運動として歩くなら毎日8000歩以上、または歩く時間がない方は20分以上の早歩きするだけでも運動になります。今はスマホが万歩計のようにカウントしてくれますので活用しましょう。
西川:他に気をつけた方が良いことはありますか?
草間:痔の原因にもなり得る「うっ血」をしないよう、体を冷やさないようにしましょう。お風呂はシャワーだけでなく、なるべくゆっくり湯船に入って血行を良くし
てから寝るようにしてください。
西川:デスクワークの人は痔になりやすいとか?
草間:同じ姿勢をとり続けていると、血行が悪くなり肛門がうっ血しやすくなります。デスクワークの方は、ちょっと書類を取りに行ったり、その場で立ったり、少しモジモジするだけでもよいので、定期的に姿勢を変えるといいですね。
西川:痔は早期発見、早期治療が一番だと聞きます。
草間:痔は良性の病気ですが、ただ放っておくと、出血や痛み、不快感がひどくなり、日常生活に支障が出て来てしまう事があります。また、痔以外の他の病気が隠れている可能性もありますので、一人でガマンせず、早めに肛門科受診をお勧めします。
西川:数少ない女性の肛門専門医である草間先生なら、女性はもちろん男性も安心してうかがえますね。ありがとうございました。
草間かほるクリニック医院長。金沢医科大学卒業、東邦大学医学部付属大森病院第一外科にて研修後、外科専門医取得。
日本大腸肛門病学会専門医取得。内痔核治療法研究会会員、日本消化器内視鏡学会会員、日本医師会認定産業医。テレビや雑誌などでも活躍中の大腸肛門専門医。
現在、金沢医科大学特定教授就任し、月2回大学病院の女性肛門病専門外来を担当している。
痔の人はどれくらいいるのか?
痔は、その種類によって年齢や割合が異なりますが、痔の疾患が占める割合は肛門疾患全体で見て、痔核約60%、裂肛約15%、痔瘻約10%とされています(図1)。
図1:肛門疾患にしめる「痔」の割合
「肛門疾患(痔核・痔瘻・裂肛)診療ガイドライン2014」より作図
厚生労働省が行った「平成26年患者調査」からは、調査を行った日に受診している推計患者数が分かりますが、これによると、平成26年の調査を行った日(10月1日)での痔核の推計患者数は13,500人、裂肛および痔瘻の推計患者数は2,900人でした。※
※厚生労働省患者調査(平成26年)より
痔の症状
痔の症状は、痔の種類によって異なります。高齢者に多い痔核の主な症状は、以下の通りです。
出血
排便時や運動時、歩行時に見られることが多く、色は鮮明な赤色であることが多いです。特に、直腸付近での出血の場合は、便に血が混じっていたり、出血の色がやや暗い赤色となることもあります。出血量は、ほとばしる程度から、肛門を紙でぬぐったときに付着する程度などさまざまであり、排便後まで出血が続くということは少ないです。
疼痛
持続的な鈍痛の場合と、発症から数日間のみの比較的強い疼痛の場合があります。また、痛みとまでいかなくても、違和感が続く場合があります。
痔核の脱出
排便時に生じる場合が最も多いですが、運動時、歩行時、重いものを持った時や、しゃがんだ時に生じることもあります。
掻痒感
時々みられる症状であり、その理由としては、粘液漏出による刺激や、過度な洗浄が原因となることがあります。
痔核の病期
痔核には「内痔核」と「外痔核」がありますが、内痔核はその症状の進行度により、4つの病期に分けられます(表1)。
表1:痔核の病期を表すGologher分類1)
グレード(進行度) | 症状 |
---|---|
グレードⅠ | 排便の時、痔核は肛門の内側で盛り上がるが、脱出はしない程度 |
グレードⅡ | 排便の時、痔核は肛門の外側まで脱出してくるが、排便が終わると自然に元に戻る |
グレードⅢ | 排便の時、痔核が脱出してしまうが、指で戻すことができる |
グレードⅣ | 痔核は常に肛門の外に出ており、指で戻すことができない |
痔核は、進行度によって症状が異なります。もっとも初期であるグレードⅠでは、排便時に出血が見られるものの、痛みはあまり無いようです。
痔核が少し大きくなってくるグレードⅡは、肛門から痔核が脱出するものの、排便後は自然に肛門内に戻ります。この頃は痛みがあり、出血もみられます。
さらに進行してグレードⅢになると、指で押し戻さないと戻らないくらい、痔核が脱出した状態になります。
もっとも進行したグレードⅣでは、痔核が常に肛門の外へ脱出した状態になり、指で押しても元に戻らないほど固くなります。この頃になると、痔核が固くなってしまうため、痛みや出血がなくなりますが、粘液が常に少しずつ滲み出して出ている状態になるので、下着が汚れるようになります。
痔になる原因
高齢者に多い痔核の原因は、便秘や下痢が挙げられます。便秘が続き、排便の時にいきみすぎてしまうことで、肛門に負担がかかります。すると、粘膜下の部分がうっ血して大きくなり、出血するようになります。また、老化現象によって粘膜下の部分を支えている組織がちぎれたり、支える力が弱くなってくると、クッションの役割をしている粘膜下の部分が肛門から飛び出してきてしまいます。これが痔核となるのです。
また、下痢が続く場合も、便が勢いよく肛門から出ることが続くため、その勢いにのって、痔核が飛び出した状態になります。
痔の治療方法
高齢者に多い痔核の治療は、保存治療と外科的な治療に分けられます。
保存療法
保存療法ではまず、日常生活の指導と薬物療法がおこなわれます。日常生活の指導では具体的に、以下のことを禁止します。
食事面では、アルコール摂取の注意、水分摂取の励行、食物繊維の積極的な摂取を行うよう指導されます。
また、長時間便座に座っていることも痔核を振興させてしまうため、座浴や入浴により、肛門付近を温めることも推奨されます。
薬物療法では、座薬か軟膏、飲み薬が処方されます。薬物は出血や痛み、脱出や腫脹などの症状を和らげるために使用しますが、お薬のみで慢性的な痔核を完治させることは、難しいとされています。
外科的な治療
痔核を完治させるために選択されるのは、外科的な治療です。
外科的な治療では以下の方法などがあります。
局所麻酔のみでできる治療が多いものの、外科的治療には出血や感染などの合併症を伴うこともあり、高齢者の場合、外科的な治療をすること自体が身体的な負担となってしまうため、治療法は慎重に選択することになります。
痔への対策
痔への対策としてもっとも必要となるのが、便秘や下痢を防ぐということです。特に高齢者は、さまざまな理由から排便コントロールが不良となることが多いため、日常生活を見直して適切な排便コントロールを行っていきましょう。
また、長時間の同一姿勢も痔の原因となります。少しづつでも積極的に体を動かすようにし、長時間座り続ける生活をしないように意識していくと良いでしょう。
さらに、トイレに行くのは便意を感じてからにします。便意を感じる前からトイレへ行っていきんでしまうと、いきみに対して強い力が必要になりますし、長時間いきんでいる状態になり、肛門への負担がかかってしまいます。便意を感じてから排便をするようにしましょう。
(公益財団法人長寿科学振興財団 「健康長寿ネット」より転載)