黒岩祐治 × 西川 りゅうじん 【知っ得健康対談】

黒岩祐治 × 西川 りゅうじん 【知っ得健康対談】

神奈川県知事
黒岩祐治氏
×
健康寿命をのばそう運動主宰
西川りゅうじん氏

《未病》を改善して心も体も元気に‼

西川:黒岩知事は「未病」という言葉と概念を、日本中、世界中に知らしめていますね!

黒岩:「未病」とは、2千年前の前漢の時代に著された中国最古の医学書『黄帝内経』にある「上医(一流の医師)は未病を治す」という言葉に由来します。健康と病気を二者択一で捉えるのではなく、健康から病気の間をグラデーションの状態と考え、より良くしていこうという人生100年時代の新たな健康観です。神奈川県では子ども、女性、働く世代、高齢者等のライフステージに応じた未病対策、また、県内の企業・行政・研究機関の産官学で連携して未病産業研究会を設立し、ヘルスケア分野のイノベーションに取り組んでいます。

健康と病気の間を連続的に変化する状態が「未病」

西川:なるほど、温故知新で最新技術とも融合して未病の考え方をより身近で活用しやすくしつつあるのですね。

黒岩:未病の考え方を最新のデータサイエンスと結びつける取り組みもすでに具体化しています。神奈川県がWHO(世界保健機関)と東京大学と共同開発した「未病指標」は、アプリの簡単なチェックで未病状態を0~100で数値化できます。

無料アプリ

西川:漢方をはじめ東洋の伝統的な医療と西洋の進んだ医学を統合し、さらに最先端のテクノロジーを活用することで、まさに「未病2.0」に進化しつつあるのですね。

黒岩:超高齢社会を乗り切るためには、一人ひとりが自分の未病状態をセルフチェックし、自ら生活パターンを変え、行動変容していくことが大切です。

西川:奇しくも日本におけるコロナパンデミックは2020年2月に横浜港のダイアモンド・プリンセス号から始まりました。神奈川県に来航した「第二の黒船」によって私たちの健康と医療が世界と密接につながっていることを改めて思い知らされたわけですが、知事は欧米やアジアの政府や医療関係者と積極的に意見交換されていますね。

黒岩:各国で「日本はコロナによる死亡者数がケタ違いに少ないのはなぜか?」とよく質問されるのですが、話しているうちに「その答えは未病にある」いう考えに行き着きます。もともと日本人は食のあり方をはじめ健康的なライフスタイルに関心が高い国民です。重症化リスクの高い糖尿病、肥満、高血圧などの患者が比較的少数だったことがコロナで亡くなる人が少なかった要因の一つだと考えられます。この点に私たちはもっと自信を持つべきです。

西川:おっしゃる通りです。「未病」の状態から改善していくには何が重要でしょうか?

黒岩:「未病」の改善には、食・運動・社会参加の3つが大切です。食と運動の重要性は言うまでもありませんが、外に出て社会と関わり、地域とつながること、そして何より誰かの役に立っていると感じられることが大事だと思います。

未病改善3つの取り組み

西川:サミュエル・ウルマンが『青春の詩』で「青春とは人生のある時期ではなく心の持ち方である」と説いた通りですね。
人はいくつになっても生きがいを感じられることが、心身の健康に何よりプラスでしょう。

黒岩:横浜市旭区に若葉台団地という約1万3千人が住む大規模な団地があります。この団地も高齢化率が右肩上がりで65歳以上の住民が50%を超えています。それにもかかわらず、要介護認定率、つまり介護を必要とする人の率はこの15年間ほとんど増えておらず、「若葉台の奇跡」と呼ばれています。

西川:高齢化率は上がっているのに要介護認定率が横ばいとは、どんな秘訣があるのでしょう?

黒岩:この団地の自治会は素晴らしくて、誰でも気軽に参加できるさまざまなイベントを開催しており、活発な多世代交流によって高齢者が元気なのです。
でも「住んでいて楽しい団地にするためであって、要介護認定率を低くしようなんて考えたこともない」といいます。地域コミュニティが充実すれば住民は元気になれることが若葉台団地で実証されています。

西川:神奈川県の県営団地のシニアのグループによるコーラス発表会も盛り上がっていますね。

黒岩:本県の県営団地でも高齢化の進展に伴って、ともすれば高齢者が孤立しかねない状況があります。
そこで、団地におけるコミュニティ創りのためにコーラスに着目しました。ポイントは、集まってただ歌を練習するのではなく発表の場を設けていることです。
しかも本格的な劇場で正装して大勢の観客の前で歌うのです。大きな舞台での本番に向けてガンバって練習するうちに高齢者の皆さんが心身ともに元気になっていくのを目の当たりにしています。

西川:さすがは早稲田大学の学生時代にミュージカル研究会でステージに立った知事ならではの施策ですね!

黒岩:日本は先進国やアジアで最も早く高齢化が進んでいますが、その中でも神奈川県は高齢化の進み方が一番早い地域です。だからこそ、アメリカのハーバードやスタンフォード大学の医療研究者からもベトナムなど各国政府からも注目を集める、本県の未病改善プログラムをさらに推進していく必要があると考えています。

西川:世界の未病先進地域である神奈川県のリードボーカルとして、これからも国内外で元気を発信してください!ありがとうございました。

Gov.Kuroiwa’s Topic J:COM「月間KANAGAWAタイム」
Ryujin's Topic シニア合唱事業「団地コーラス発表会」

黒岩 祐治氏プロフィール

プロフィール

早稲田大学政治経済学部卒業。フジテレビジョンに入社し、報道記者などを経て、「FNNスーパータイム」「報道2001」などでキャスターを務める。自ら企画・取材・編集を手がけた救急医療キャンペーンが放送文化基金賞を受賞し、「救急救命士誕生の父」と評される。国際医療福祉大学大学院教授を務めた後、2011年より神奈川県知事に就任。
現在4期目。2022年に未病コンセプトを活用した「健康な高齢化」に向けた取り組みが国際的に認められ世界の「The Healthy Ageing 50」の50人の1人に選ばれる。