横浜市立大学名誉教授 小阪憲司先生 × 健康寿命をのばそう運動主宰 西川りゅうじん氏
発見が難しいレビー小体型認知症患者・家族・ドクター一丸となって治療を!見逃されやすいレビー小体型認知症
西川:65歳以上の7人に1人が発症するほど認知症が増えています。アルツハイマー型、レビー小体型、脳血管症型が三大認知症と呼ばれますが、小阪先生が発見されたレビー小体型認知症とはどんな病気ですか?
小阪:レビー小体型はアルツハイマー型の次に多く全体の約2割を占める認知症です。症状の現れ方に個人差があり、良い時と悪い時が波のように現れ、症状だけで判断が難しい病気です。幻視や認知の変動、睡眠時の異常行動、動作が緩慢になるパーキンソン症状などが特徴的です。
西川:認知症の半数を占めるアルツハイマー型は記憶力や理解力が徐々に低下しますが、レビー小体型は診断しにくいのですね。
小阪:その通りです。手足がふるえたり筋肉がこわばったりするパーキンソン病や、うつ病、アルツハイマー型認知症など、ほかの病気だと思われやすいのが難点です。
西川:周囲や医師も見逃しやすいのですか?
小阪:はい。アルツハイマー型認知症は認知機能が全体的に低下していくのに対し、レビー小体型認知症は認知機能に波があり、初期段階では機能の低下が目立たず、しっかりしている時があるため、見逃してしまう場合もあります。
西川:幻視が起これば周囲も困りますね。
小阪:幻視の症状が出ると、部屋に掛けてある上着が人に見えたり、実際はいないのに、子どもや生き物が本人にはありありと見えたりすることがあります。ホースがヘビに見える人もいます。
西川:妻や夫が浮気していると思い込み、嫉妬深くなることもあると聞きます。
小阪:嫉妬妄想といわれる症状です。それも幻視で、いるはずがない男や女の人が見え、配偶者が浮気していると解釈してしまう場合もあります。例えば、娘を別の人と勘違いする誤認妄想、あるいは、自分はいつも監視・盗聴されているといった被害妄想に陥る人もいます。
西川:夜中に大声でわめき出すとも聞きます。
小阪:レム睡眠行動障害という症状が現れることがあります。夢をみて、通常は夢を体で表現することができないのにこの病気で夢を体で表現してしまう症状です。手足をばたつかせてけがをしたり隣で寝ている人をたたいたり蹴ったり、「人が来た」などと夜間せん妄のように騒ぐ患者もいます。
西川:そもそも、レビー小体型認知症はなぜ起こるのですか?
小阪:脳の神経細胞の中にレビー小体というかたまりができることによって起こります。レビー小体というのは、もともとドイツのLewy(レビー)によりパーキンソン病の脳幹で発見され、1950年代にパーキンソン病の診断には欠かすことのできないことが明らかにされました。しかし、当時はパーキンソン病では認知症はあまり起こることはないと考えられ、またこのレビー小体は大脳皮質には現われないと考えられていました。しかし、認知症とパーキンソン症状を主症状とし、大脳皮質にもレビー小体が見られる症例がありました。この物質が神経細胞を傷つけ壊してしまうため認知症を発症するのです。
西川:レビー小体はどういったメカニズムでできるのですか?
小阪:元来脳内にあるたんぱく質が変性したたんぱく質となって蓄積したものであることはわかっていますが、どうしてできるのかは解明できていません。そのメカニズムを突き止めることが今後の課題です。
日本人はレビー症型認知症になりやすい?!
西川:現在、レビー小体型認知症の患者は全国に約90万人いるといわれていますが、どういう人がかかりやすいのでしょうか?男性の患者が多いと聞きますが。
小阪:女性も少なくないものの、男性がやや多いといわれていますが、国内のさまざまな調査では大きな性差はないとされています。生真面目で几帳面などの病前性格と精神症状との関係は報告されています。
西川:気質と罹患率に関連があるのですか?
小阪:性格的に真面目な人は、何でもちょっとしたことでも気になり苦にしがちです。そこから、幻覚、妄想に発展しやすいのでしょうか。病気の発症との関係は明らかではなく、あくまでも統計学的な報告です。
西川:家族は、最初、「何かヘンなことを言っているな」という感じでしょう。ところが、気が付けば重篤化している。
小阪:初めは本人も家族もわかりません。だから、ドクターが説明する必要があるのです。そして、患者・家族・ドクターが一丸となっての治療が不可欠です。
西川:家族は大変ですね。本人は信じたくないし信じない。家族は困惑するばかり。
小阪:患者の中には自分でおかしいと感じる人もいますが、多くの人は最初の頃は気付きません。本人は認めたがりませんし、家族や友人が医師と対処するしかありません。
西川:年齢的には患者数の多いボリュームゾーンは何歳ですか?
小阪:初老期から老年期、つまり、60歳〜70歳が最も発症しやすい年齢層だといえます。
西川:医師からレビー小体型認知症だと診断された場合、どのように治療すればよいのでしょうか?
小阪:薬による治療が中心です。アリセプト®は幻視などの精神症状を含めた認知機能の改善に、ドパミンはパーキンソン症状に一定の効果があります。漢方薬や最近は使用頻度が少なくなりましたが、難治性の精神症状には、時に、非定型抗精神病薬を使用する場合もあります。
西川:家族はどのようなことに気を付ければよいでしょう? 本人には幻視が見えている訳ですし、こちらが浮気しているなどと何度も言われたら、「何を言っているんだ!」と辟易するでしょう。
小阪:大変ですが、病気なのだと割り切り、忍耐力を持って、病気を理解し患者に対応し続けることが大切です。周囲の対応は時として大きな成果が得られます。
西川:一度なってしまうと完治するのは難しいのでしょうか?
小阪:進行性の病気なので少しずつ悪化していきますが、早期に対処すれば、幻覚や妄想といった症状は、ある程度、緩和できます。ですから、本人のみならず家族にとっても、早期発見・早期治療が重要です。
西川:厚生労働省の発表では、2025年には自立度Ⅱ(日常生活に支障をきたすような症状や行動、意思疎通の困難さが多少みられても、誰かが注意していれば自立できる)以上の認知症患者数の推計は410万人、つまり65歳以上の5人に1人が認知症になると予測されています。ところが、アルツハイマー型は知っていても、レビー小体型は約2割を占めるにもかかわらず、あまり知られていません。気になる点があれば、レビー小体型認知症がわかる医師のいる病院に少しでも早く行くべきですね。ありがとうございました。
※協力:東海大学医学部東京病院神経内科 梁 正淵 准教授
医学博士。レビー小体型認知症の発見者として知られる。
1965年金沢大学医学部卒業後、名古屋大学医学部精神医学教室入局(副手・助手・講師)。
1975年東京都精神医学総合研究所副参事研究員・都立松沢病院兼務。この間、約1年半、Max-Planck精神医学研究所(ミュンヘン)客員研究員。
1991年横浜市立大学医学部精神医学教室教授。
2003年より横浜市立大学名