小西 聖子 × 西川 りゅうじん 【知っ得健康対談】

写真:小西 聖子 × 西川 りゅうじん 【知っ得健康対談】

武蔵野大学 人間科学部 教授・精神科医 小西聖子先生
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健康寿命をのばそう運動主宰 西川りゅうじん氏

ウィズコロナ時代のストレスと向き合う法「理不尽なことは誰にでも起こる」


日常をコロナの不安と恐怖が襲う

西川:新型コロナウイルスの感染拡大は、日々の生活の中で、あらゆる人にさまざまなストレスを与えています。倒産、リストラ、給与やボーナスのカットで経済的に苦境に陥っている人も少なくありません。急速に広がった在宅勤務に良い面はあるものの、家庭内で摩擦が増え、DVやコロナ離婚が問題になっています。

小西:閉じ込められて行く場所がなくなると、当然、家庭内暴力が増えます。実際、DVセンターへの相談も2〜3割増えていますし、性暴力の相談も増加しています。また、自殺者数は以前から景気の悪化に比例して増える傾向にあります。

西川:誰でもストレスで一杯いっぱいのときがありますが、そこにコロナが追い打ちをかけると、心のキャパシティを超えてしまいますね。何がそのトリガーを引いてしまうのでしょうか。

小西:未知のウイルスに感染するかもしれない恐怖、失業の恐怖、対人関係がうまくいかない恐怖など、すべて含めてコロナに対する恐怖だといえるでしょう。さまざまな要因で不安が高まっている場合には、コロナに対する不安や恐怖が乗っかってしまう危険性があります。

西川:感染者とその家族、コロナによる失業者の中には、「わたしが悪いんだ」「自分の存在自体が周囲に迷惑をかけてしまうのだ」と思い込む人も出てきかねません。

小西:自己評価を下げ、自責の念にかられるのは、ショックが大きい体験をした人に共通する反応です。例えば、地震は自然災害ですが、震災で家族を失った人は、家族が亡くなったのは自分のせいだと思いがちです。理不尽なことに対して自分を責めるのは、人は起きたことに何かしらの原因がないと落ち着かないからです。自責感の強い人を治療してきた経験を通して、ストーリーを創作するのは人間の性やDNAなのだと思うようになりました。ストーリーがなく何が起きるかわからない世界に心がかき乱されるより、ストーリーの中で起きたと考えるほうがまだ落ち着くのでしょう。

西川:コロナに感染したり、経済の悪化で失業したのは本人のせいではないのに、意味付けしたり、ストーリーを考え、先を読めなかった自分が悪かったと自らを責めるんですね。

小西:自然とそう思い込んでしまうのです。また、それを思い込みだと指摘されることも本人にとってはつらいのです。

誰かと話すことで糸口が見つかる

西川:コロナで生活様式が大きく変わり、誰もがストレスを感じざるを得ない状況です。私たちはどのようにストレスに対処していけばよいでしょうか。

小西:失業して収入がなくなれば不安になるのは当然です。また、感染に恐怖を感じるのも当たり前のこと。混乱しているとき、人は孤独に陥りやすいものです。一番大切なのは、困ったら自分一人で悩まないで人に相談することです。家族、友人、ご近所、仕事の同僚、相談機関など、積極的に誰かと話すことです。話せば次の糸口が見つかるかもしれません。

西川:人間は人と人の間と書くように、人とつながって話すことが大事なのですね。

小西:感染症や災害の恐怖が広がっているときは、食事や睡眠などの日常生活を整え、人とつながることが第一です。

コロナはあなたのせいじゃない!

西川:コロナで気持ちが追い詰められている人に、先生はどのようにアドバイスをされますか。

小西:何より、「具合が悪くなって当然です!」と伝えたいですね。そして、「今より悪化させないために、ちょっと対策を立てましょうよ」とお話します。

西川:前向きになるきっかけは、どのようなことなのでしょう。

小西:それは心に傷を負った人が「私は悪くない」と思えることです。自分のストーリーを作って自責していた人も、認識のレベルから変わると、違う見方ができるようになります。まずは身近な人と話すことが前向きになるきっかけになり得ます。ただ、ウツの症状が強い場合は、「とにかく一度、専門医に診てもらいましょう」とお伝えしています。

西川:コロナなど1年前には誰も予想も予測もできなかった訳で、感染した人やその家族も、倒産した人も失業した人も、実際、誰も悪いはずがありませんね!

小西:先が見えていたら準備できますが、そうでないから不安になるわけです。予期できないことが不安をもたらすのは自然なことです。理不尽なことは誰にでも起こりうるという認識を持っていただきたいです。

西川:コロナによって、誰もがさまざまなストレスにさらされ、大なり小なり心の傷を抱えて生きていかねばならない「ウィズコロナ」の世の中が、まだしばらく続きそうです。でも、小西先生のお話をうかがって、気のおけない人との何気ない会話や一緒に過ごす時間の大切さに改めて気づかされました。ありがとうございました。

小西聖子氏プロフィール

写真:小西聖子氏

医学博士、精神科医。専門は臨床心理学、トラウマケア。東京大学教育学部教育心理学科卒業。東京都心理判定員を経て、筑波大学医学専門学群卒業、同大学院博士課程修了。東京医科歯科大学難治疾患研究所の客員助教授、犯罪被害者相談室長として被害者支援や精神的ケアに携わった。武蔵野大学教授に着任後、同学人間科学部長等を歴任。トラウマ、PTSD、DVといった言葉を広めた心の問題の第一人者。